た。
そんな恰好で私は船に乘つた。ところが集つて來た仲間の者を見ると、それぞれ輕裝になつてゐる。なかには背廣の上に襟卷をしただけでぶるぶる震へてとび込んで來たのもあつた。「オーヴァーはどうしたんだ」と聽いた、するとその仲間は答へて曰く「オーヴァーを賣り飛ばしてみんな飮んで來たよ」とちよつと肩を張つてみせたがその下から大きな嚔をたて續けに五つ六つして「ああ寒い、少し早まり過ぎたかな」と慌ててサロンの中へとび込んだ。
船は出た。空からはちらちら粉雪が降つて來た。それに風が少し出て來たものだから甲板の上に立つてゐることは出來なかつた。從つてみんなサロンへ入つてビールを出して貰ひ、それで身體を温めてゐた。
そのうちに私たちの船室が割當られた。私はずつと艫の方の船室であつた。中に入つて見るとスチームが通つてゐた。長椅子に座るとお尻の方からぽかぽか温い。それでやうやく元氣が出て來た。その夜はスチームのお蔭でぐつすり眠ることが出來た。
翌日になつた。二日目だ。
船はどんどん進む。寒さは昨日と同じだ。しかし夜中になつてスチームが何だかいやに暑く感ぜられて、寢卷の下に着てゐた冬シャツの胸のボタ
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