ば、海の色は非常に濁つて黒ずむ。それがスコールが引いてしまへばまた元の鮮かな色に返る。海は激しやすいカメレオンのやうに思はれた。
[#地付き]『科学知識』昭和十八年四月号
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[#地付き]第二回

   船と暑さ

 内地の港を船で出たのは一月四日だつた。
 内地では冬のまんなかである。だから服裝は、本來なら、下は駱駝の毛のシャツ、上に厚い背廣を着て、その上に首をマフラーで包み、その上をさらに丈長のオーヴァーコートで身を固めてゐてなほ寒い季節であらう。ことに海に出るのであるから、ジャケッがもう一枚ぐらゐ欲しいところであつた。
 しかし私たちはさうしなかつた、といふのは、これから暑い南の方へ行つて生活することになるから、向ふではかういふ冬の支度は不要である、故に出來るだけ身輕にして行きたいと誰しも思つてゐた。
 私はその爲に、背廣以下は冬のものを着てゐるが、オーヴァーは脱いでレインコートに着換へてゐた。冬のまんなかをレインコートといふいでたちで親類の家を訪問して別れの挨拶などをしたので、向ふの家の者は驚いて「そんな寒い恰好では」と心配してくれ、たうとう背中に眞綿を背負はされ
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