には魚の子共が非常に夥しい大群を成して集つてをる。魚の黒い背がさういふところの海の色をさらに黒くする。
船の上からは今申したやうな透明な海水を通じて海底の模樣がよくわかつた。珊瑚礁が下の方から黒い影をして[#「影をして」はママ]盛り上つてをるところもよく見えたし、もつと淺くなると海の底が太陽の光で白く光つて見え、そこに菊目石のやうな白珊瑚の固りや、枝を成した白珊瑚などがまるで林のやうに美しく海底に咲亂れてをるのがよく見えた。またその珊瑚礁の間には眞黒な海鼠がくつ附いてゐたり、海膽《うに》のやうなものがへばり附いてゐたり、又大きな五本の指を伸したひとでが赤い腹を見せて這つてゐたりする。それから魚が泳いでゐるのも見えた。こゝいらの魚は非常に色彩が鮮かで毒々しい色をしてをる。赤い魚、青い魚、紫の魚、縞のある魚、内地ではとても見られないやうな熱帶の魚族が珊瑚の間を縫つてをるのを見て、龍宮とはかういふところぢやないかと思つた。
しかしかういふ美しい海もスコールが起きて來るといふとまつたく體の色を變へてしまふ。スコールに叩かれる海面はその大粒の雨によつて眞白になる、しかし舷から波立つ海面を見れ
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