海の色が熱帶の太陽を浴びて、その上に白い波頭が幅廣く縁取つてをるのは實に美觀である。かういふ緑青を溶かしたやうな青い海は南洋から始まり赤道を越え、さらに南下してビスマルク諸島、ソロモン群島、ニューギニヤの方面までずつと續いてゐるのである。
私はニューブリテン島のラバウル港で、海の中に安全剃刀の刄を落してしばしば樂んだ。舷に立つて安全剃刀の刄をぽとんと海に落すのである、さうするとその安全剃刀の刄は白く光つて海面に落ちてからそのまゝ靜かに海中へ沈んでいく、それが何時までもいつまでもきらきらと銀色に光つて見えてゐるのだ。ラバウル附近は相當水深があるのであるが、安全剃刀の刄はなかなか底に達しない、私は時計を出して時間を計つたことがあつたけれども、安全剃刀の刄が見えなくなるまでとても時計を見てゐるのが退屈になつたほどである。
しかし南太平洋に於て、海岸から入江になつて、奧の方へ河が續いてゐるやうなところでは、海の色はかなり濁つてをる。あちらの方の河は美しい清らかな海とは違つて泥水であつた。その河も非常に緩かな河であるが、それが泥水を浮べて入江から海岸の近くを褐色に濁らしてをる。さういふところ
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