がして、掬つて飮んで見たくなる。白い泡と眞黒な海水との間には、兩方の混じつた非常に青い海水が漂つてゐる。
 うねりが相當大きくなる。その間に飛魚が何尾も群をなしてすつすつと飛ぶ。飛魚は船が近付いたので、びつくりして、波間から飛立つのである。翅を擴げて、見事な滑空をして、十メートルも二十メートルも飛ぶ。飛魚の體は銀色に光つてまるで砥ぎ澄ましたナイフを投付けたやうに見える。さうして長い滑空の末に眞黒なうねりの横腹にぷつりと頭を突込む。飛魚の頭が碎けたのではないかと思ふほど痛々しく感ぜられる。その時に僅な白い水煙が立つ。飛魚は大きいのもあるし又非常に小さいのもある。大きな飛魚は、滑空距離も長く、五十メートルも百メートルも、翅を休めないで飛んで行く。飛魚が船の舳先から、横から、ぴよんぴよんと幾つも幾つも飛出す景色はまことに愛らしく又滑稽である。飛魚の飛んでをる海は長い航海者には一つの樂しい觀ものである。
 かうして海を段々南の方に行くにしたがつて、どこからともなく白い鴎が飛んで來たり、或は又燕尾服を着たやうな恰好の燕の大群と一緒になつたりする。
 黒潮を越えてしまふと海は急に色が淡くなる。その
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