出して行ったのだった。多|分《ぶん》始めから脱走する心算《つもり》だったらしい、と一同の意見は一致した。――其の時、急に此の脱走したと思った死刑囚が、一行の前にヒョックリ現れたので、一同は驚いた。いやそれよりも一層驚かされたことは、この死刑囚の声音《こわね》がすっかり違って仕舞ったことと其の話の中に盛られた内容なり考えなりが全く別人のようになっていた。其の時、やっと、気が付いたことは、これこそ例の怪人の一人が死刑囚を殺し、其の皮を剥ぎ、服装《なり》も一緒にこれを怪人が着《ちゃく》しているのだという事が判った。
一行は怪人に其の不道徳を詰問《きつもん》したが、一向要領を得なかった。というのも怪人は人を殺すということなんか、別に罪悪だと考えられぬらしい面持《おももち》であった。
一行と怪人との争闘《そうとう》が始まったが、結局一人の怪人に一行は全く征服されてしまう。怪人は人間より遥かに強かった。又学術的に勝《すぐ》れた頭脳を持っているようであった。其時《そのとき》、汽笛のような音響がした。死の谷に立ちのぼる白気《はっき》は愈々《いよいよ》勢いを増した。怪人は一同に別れを告げて去った。一
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