これは死の谷への先登《せんとう》をやらせるためで、万一危険が生じて来てもこの二人の死刑囚が先ずどうかなる筈で、所謂《いわゆる》パイロット・ランプの役目を演ずるわけである。
 で、一行は愈々《いよいよ》死の谷へ発足《はっそく》した。山又山を越えて、軈《やが》て死の谷の近くへ来た。一行は望遠鏡の力を借りて観測した。白い蒸気のようなものが飛散している。附近の草木は枯死《こし》し、鳥獣の死屍《しし》も累々《るいるい》たるのが見えた。不図《ふと》、死の谷へ下りようという峠のあたりに人影が見えた。人間らしくはあったが正《まさ》しく怪物であった。一行中の気早《きばや》の若者が、射撃を加えた。人影は峠の彼方《かなた》に消えた。一行はこれをきっかけに戦闘準備を整えて、二名の死刑囚を先登《せんとう》にして、まっしぐらに、峠へ駈け上がって見た。
 怪人を射止めた辺りを探したが、その姿はなかった。唯、望遠鏡で見覚えた岩のあたりには、緑色の汚点が方々に夥しくついていた。
 先登に駈け出して行った死刑囚の一人が見えなくなっていた。彼は恰《あたか》も此の好機逸すべからずと、死の谷の方へ脱兎《だっと》の如くに早く駈け
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