ならお附合ひしてもいいと言ひ出した。それなら都合によつては、霧積《きりづみ》温泉に泊る手もあるといふのである。
ゆふべの令嬢たちの中からも二人ほど加はることになつて、出発は午《ひる》ちかくなつた。のみならず、その夏はまだこのコースを踏んだ人があまりないと見えて、思はぬ場所に藪《やぶ》がはびこつてゐたりして、女連中の足はなかなか捗《はかど》らなかつた。鼻曲山の頂上にたどり着いた頃は、落日が鬼押出《おにおしだし》の斜面に大きくかかつてゐた。
日帰りはあきらめなければならなかつた。われわれは日の影りかけてゐる東の尾根を霧積へ下りることはやめて、明るい西斜面づたひに小瀬温泉をめざした。温泉に着いてみるともう暗かつた。
その晩、わたしはGと同じ小部屋で寝ることになつた。あかりを消して眼をつぶつてみたが、疲れてゐるくせに眠気がささない。Gも同じらしかつた。殆《ほとん》ど一時間ほどもさうしてゐた挙句に、どつちから言ひだすともなく連れだつて浴室へ下りた。
月はなく、山あひの闇が思ひがけないほどの重さで窓に迫つてゐた。湯川の瀬音が耳もとへ迫つたり、遠まつたりしてゐた。私たちは湯ぶねの中に向ひあつ
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