て瞑目《めいもく》したまま、その音を聞くともなしに聞いてゐた。まるで息をしてゐるのが私たち二人ではなくて、却《かえ》つて自然の方であるやうな気がした。
何かしら苦しい沈黙だつた。するとその時、すぐそこの松山の中でギギッとけたたましい啼《な》き声がした。同時にするどい羽音がして、中ぞらへ闇を裂いた。そして消えた。
「なんだらう、雉子《きじ》かな?」と私は言つてみた。
「さあね、五位鷺《ごいさぎ》ぢやないかな。」
Gは目をつぶつたまま、鈍い声で答へた。あとはふたたび瀬音だつた。
湯からあがつて、また寝床へもぐりこんだが、今度もやつぱり寝つけない。先に辛抱を切らしたのはGの方だつた。彼はライターをつけて、枕もとの水をうまさうに飲んだ。私も腹這《はらば》ひになつて、暗がりでタバコを吸ひだした。
「寝られないかい?」とGがきく。
「うん。つい鼻の先まで夢は来てるんだが、どうもいけない。……さつきの鳥の声がまた聞えさうな気なんかがして、また夢のやつ、スイと向うへ逃げちまふ。」
「ああ、あの声か。……やつこさん、蛇《へび》にでも襲はれたかな。」
「さうかも知れない。とにかく、かう耳につきだした
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