掘り葉掘り問ひかけたが、満足な答は得られなかつた。Gが照れる先に、当のSが照れてゐるのだから話にならない。結局わかつたことは、Gが現在独身であること(その口ぶりでは、どうやら一度は結婚したらしくある――)、それにもう一つ、朝鮮や満洲に十ほど病院を建てて来た、といふことだけだつた。口数の少ない曾《かつ》ての彼を見馴《みな》れてゐるわれわれは、それだけで十分満足した。やがて、交際ずきなHの細君《さいくん》の奔走《ほんそう》で、知合ひの夫人や令嬢を招いての夜会になつた。Hの細君としては、早くもGの後添《のちぞい》のことを想像に描いてゐたのかも知れない。その席でGは案外器用な踊りぶりを見せたが、令嬢にしろ夫人にしろ、彼が注意を特にかたむけたと思《おぼ》しい相手は一人もなかつた。大きい眼をむいてひそかに彼の一挙一動に気をくばつてゐたHの細君は、ほとんど露骨な失望の色を見せた。
夜会から一日おいての朝、われわれは夏山登りを思ひついて、あまり気の進まないらしいGに案内役を無理やり承諾させた。Gはしばらく思案してゐたが、浅間といふ誰やらの提案をしりぞけて、一文字山から網張山を経て鼻曲山へ出る尾根歩き
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