吸ひつける束《つか》のま、Gの横顔が闇の中にうかんでゐた。どうやら笑ひを含んでゐるらしかつたが、その性質が突きとめられないうちにライターは消えた、私は無言だつた。
「僕の話は、まあこれでお仕舞なんだが」と、やがてGは言つた。――「もつとも、もし君がまだ眠気《ねむけ》がささないといふのなら、もう一つ二つ蛇足を添へてもいいがね。」
私が「ああ」と答へると、Gは時どきタバコの火で横顔をぼんやり浮き出させながら、次のやうな話をした。
「その真夜中のことだ。僕はがやがやいふ人声で目が覚めた。じつと聞いてゐると、どうやらそれはすぐ下の玄関先でしてゐるらしい。人数は二人らしく、あたり憚《はば》からぬ高声で何やら口論してゐる。乱暴な支那語で、もちろん中身はわからない。しばらく我慢してゐたが、やがてマッチをすつて時計を見た。四時だつた。だんだん聞くうちに、べつに喧嘩《けんか》でもないらしいことが分つた。ものの十五分も僕はそのまま横になつてゐたらうか。突然、どこか二階の窓がガタリとあいて、いきなり「ギギッ」と叫んだ者がある。僕は思はず跳ね起きた。一昨日の晩の、あの夜鳥の叫びにそつくりだつたのだ。僕は窓を
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