ど露わになるのである。このような叙述が二十頁と重なったら、卒読し得る人はよもやあるまい。しかもこれを用言形に書き直すことは、内容的にいって到底望むべくもないのである。

 音律という問題にことを限れば、今度は手近なロシヤ畠にも恰好《かっこう》な例を持ち合わせている。これには幸いジイドの協力に成るフランス訳が手許にあるので好都合である。プーシキンの短篇『スペードの女王』の一節であるが、原文は極めて凝縮されながら、しかも平明|暢意《ちょうい》のプーシキン一流の達文である。訳者の心は専らこれらの特質を写すことに注がれた。
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≪〔Par ce me^me escalier, songeat−il, il y a quelque soixante ans, a` pareille heure, en habit brode', coiffe' a` l'oiseau royal[#「l'oiseau royal」は斜体], serrant son tricorne contre sa poitrine, se glissait furtivement dans cette me
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