狽奄盾獅刀@du voyage, la nouveaute' des objets, les efforts que nous faisions sur nous me^mes ramenaient de temps entre nous quelques restes d'intimite'.〕≫
「旅の慰み、眼に見る物の珍しさ、お互いの間でつとめてなした遠慮、それが時たま私たちの間に昔の睦《むつ》まじさの名残をいくらか蘇らせた。」
[#ここで字下げ終わり]
 教養深い某氏の訳文には非常に細かい心づかいがゆき届いていて、今日《こんにち》ではこれ以上の飜訳を求めることは恐らく不可能であろうかと思われる。しかもわれわれは、ここに繰り展《ひろ》げられている心理情景の物しずかな進行プロセスを、身裡に体感するまでには何という労力と時間とを費やし、あわせて調子の粗硬さから来る一種の不快の感じを忍ばねばならぬことだろう。これを原文の含むなだらかな音律が、理解と感得との同時性を、快くうながしつつ進行してゆく状態に比べるとき、現代日本語の音律上の貧寒さと抽象表現に堪えぬという救いがたい不具さとは、残酷なほ
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