の暫《しばら》く前に二三人の足軽《あしがる》らしい者が、お庭先へ入つては参りましたが、青侍《あおさぶらい》の制止におとなしく引き退《さが》りましたので、そのまま気にも留めずにゐたのでございます。その同勢三四十人の形《なり》の凄《すさ》まじさと申したら、悪鬼羅刹《あっきらせつ》とはこのことでございませうか、裸身の上に申訳ばかりの胴丸《どうまる》、臑当《すねあて》を着けた者は半数もありますことか、その余の者は思ひ思ひの半裸のすがた、抜身《ぬきみ》の大刀《たち》を肩にした数人の者を先登に、あとは一抱へもあらうかと思はれるばかりの檜《ひのき》の丸太を四五人して舁《かつ》いで参る者もあり、空手《からて》で踊りつつ来る者もあり、あつと申す暇もなくわたくしどもは、お文倉《ふみぐら》との間を隔てられてしまつたのでございます。刀の鞘《さや》を払つて走せ向つた血気の青侍二三名は、忽《たちま》ちその大丸太の一薙《ひとな》ぎに遇ひ、脳漿《のうしょう》散乱して仆《たお》れ伏します。その間にもはや別の丸太を引つ背負つて、南面の大扉にえいおうの掛声《かけごえ》も猛に打ち当つてをる者もございます。これは到底ちからで歯
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