雪の宿り
神西清
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)文明《ぶんめい》元年
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)連歌師|風情《ふぜい》には
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「日+斤」、第3水準1−85−14]
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文明《ぶんめい》元年の二月なかばである。朝がたからちらつきだした粉雪は、いつの間にか水気の多い牡丹《ぼたん》雪に変つて、午《ひる》をまはる頃には奈良の町を、ふかぶかとうづめつくした。興福寺の七堂伽藍《しちどうがらん》も、東大寺の仏殿楼塔も、早くからものの音をひそめて、しんしんと眠り入つてゐるやうである。人気《ひとけ》はない。さういへば鐘の音さへも、今朝からずつととだえてゐるやうな気がする。この中を、仮に南都の衆徒三千が物の具に身をかためて、町なかを奈良坂へ押し出したとしても、その足音に気のつく者はおそらくあるまい。
申《さる》の刻になつても一向に衰へを見せぬ雪は、まんべんなく緩やかな渦を描いてあとからあとから舞ひ
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