二つの極に牽引され綺麗《きれい》な列に並ぶ状態を思ひ浮べた。彼は明子がそのうちいきなり彼の眼の前で黒と白の二つの要素に分身するのではないかとさへ思つた。彼は妙な恐怖に捉《とら》はれた。
明子は確かに自分の肉体を投げやりにとり扱つてゐた。手の甲にも顔の皮膚にも、その蒼白《あおじろ》い鈍さを滑らかにするための少女らしい手入れの跡すらないことは明らかに見てとられた。彼女は自分の素足の脛《すね》を平気で伊曾の眼の前で組んで見せた。それはどう見ても美しいといふ批評の下せない足だつた。蒼白い彼女の足の形は、すらつとしてゐると言ふより寧《むし》ろ瘠《や》せてゐると言つた方が至当だつた。その十三歳の少女のやうな足にも、成長の情感が仄《ほの》かにあらはれはじめてゐるのは争はれなかつた。にもかかはらず、明子は足を露《あら》はに晒《さら》すことに何の羞恥《しゅうち》も示さなかつた。自分の皮膚を棄《す》てて顧みないやうな無関心さがあつた。或ひはそれを伊曾に、全く別の事にいつも気を取られてゐるといふ風にも見えた。
皮膚に対する彼女の態度とはまるで反対に、明子は自分の心は実に大切さうに包みかくしてゐた。伊曾に
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