さやう、どうもあの幟《のぼり》にあるRといふ字が臭いですよ」と応じたのは、鼻|眼鏡《めがね》をかけた学者ふうの紳士で、「はじめは Radical《ラジカル》 か、それとも Revolutia《レヴォルシヤ》 の意味かなと思つて、こりや面白さうだと期待したんですがね、どうやらあれは、Reaction《レアクション》 の意味なのかも知れんですな。」
そのうちに、弁士がまた喋《しゃべ》りだした。シッと制する声が起る。二人は黙つた。
「……これは失言、おわびを申します。さてその人民どもを誑《たぶ》らかす邪法の方便は、まだまだそれだけではない。手拭《てぬぐい》を以て馬と見せ、砂塵《さじん》を投げて鳥となし、爪《つめ》より火を出してタバコを吸ひ、虚空《こくう》を飛行し地に隠れ、火の粉を降らして沃土《ようど》を現じ、その他さまざまの幻術を使ふ。……」
「そんなことで人民は騙《だま》されないぞ!」
「同感、同感!」
だいぶ不穏な形勢に、弁士は些《いささ》かあわて気味で、片手を振りふり早口になつた。
「されば、されば先《ま》づ聞かれい。もとより人民も騙されなんだが、信長公もさすが不審と思召《おぼしめ
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