ハビアン説法
神西清

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)窟《やぐら》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)相模《さがみ》入道|高時《たかとき》
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 昨日はよつぽど妙な日だつた。日曜のくせにカラリと晴れた。これが第一をかしい。無精な私が散歩に出る気になつた。これも妙だ。北条の腹切り窟《やぐら》の石塔を、今のうちに撮影しておかうなどと、殊勝な心掛をおこした。これが第三にをかしい。おまけにまた……いや、順を追つて話すとしよう。
 とにかく、カメラをぶらさげて家を出た。Nといふ小川を渡る。そこから爪先《つまさき》あがりになつて、やがて細い坂道にかかる。その坂道が、いつの間にやら、真新しいアスファルトに変つてゐた。
 登りつめると、水色の高級車が一台とまつてゐて、その先にいきなり、思ひもかけぬ別天地がひらけた。
 広びろした庭の小砂利《こじゃり》をふんで、セーラー服や吊《つり》スカートの少女たちが、三々五々つつましやかに歩き廻つてゐる。ははあ、園遊会だな、と咄嗟《とっさ》に思つたのは吾《われ》ながら迂闊千万《うかつせんばん》で、正面の数寄屋《す
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