の停車場。
 第三楽章。躁急調。――別離後の男を苛《さいな》む空虚感。焦燥。男がとうとう女に逢いに行く。劇場でのメロドラマティックな出会。狂おしい接吻。
 第四楽章。軽快調から漸次緩徐調に。――永遠の愛、精神の愛による二人の結びつき。この深いよろこびの瞬間にふと訪れる老年の気配。永遠の時に流される「どうしたら?」という悲しい疑問。
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 ここでは、主題は二つに分裂したものとは見ずに、曾てミールスキイの指摘したように、主人公の遊戯的な恋愛観(直線的主題、すなわち直線として発展すべきものとしての期待を読者に抱かせつつ最初にあらわれた主題)が、漸次真剣な深い愛情に移り変ってゆく(すなわち曲線への偏向)と解するのが至当であろう。『イオーヌィチ』も全く同様の構成を有する一例である。

 チェーホフの短篇小説を読んでいると、特に後期の作品について、このような分析が多かれ少なかれ可能でもあり適切でもある場合に屡※[#二の字点、1−2−22]行きあたるのである。してみるとこの一種のソナータ的とも言うべき構成は、チェーホフの愛用した形式のうちの少《すくな》くとも一つをなすものと看做
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