。――その夜更け。妹娘が野道を送って来る。晩夏の星月夜。接吻。……その翌日。既に妹娘はいない。画家が曾ての道を逆にその家から遠ざかって行く。
 エピローグ。
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 音楽的素養のある人ならもっと周密な分析をすることが出来るであろうが、とにかく右に現われただけでも、ソナータの構成を思い起すのは何も僕一人だけではあるまいと思う。もちろん各楽章の排列《はいれつ》は転倒し、また変形しているとはいえ、二つの主題が交《かわ》る交《がわ》るに起伏出没していることまで、何とソナータの形式に似通っていることであろう。二つの主題とは、言うまでもなく、画家が妹娘によせる淡い恋心、および画家の内心に巣くう世紀末インテリ的な焦燥である。
 もう一つ序《つい》でに、『犬を連れた奥さん』を分析してみても、全く同じ結果に到達することを発見するであろう。すなわち、
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 第一楽章。平明な緩徐調。――南ロシヤの別荘地での二人の出会《であい》。男の恋愛遊戯的な気持。
 第二楽章。軽快調から漸次急調子に。――行きずりの恋の成立。重なる逢引《あいびき》。ふと断ち切られたような別離。秋の夜
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