として迎えたことになります。その運命的な契合《けいごう》は、ツルゲーネフの人生観の上にも作風の上にも、消しがたい烙印《らくいん》を押《お》しています。彼が、崩《くず》れゆく、荘園《しょうえん》貴族文化の最後の典型的な歌い手と呼ばれる所以は、じつにそこにあります。このことは、『猟人日記《りょうじんにっき》』(一八四七―五二)に始まって、『ルージン』(一八五五)、『貴族の巣《す》』(一八五八)、『その前夜』(一八五九)、『父と子』(一八六一)、『けむり』(一八六七)、『処女地』(一八七一)と続く彼の代表作の系列の中にも、もちろんその時代々々のニュアンスによる心境の推移からくる種々転調はあるものの、一貫《いっかん》して感じとられる重要な一筋の脈を成しています。
しかも、更《さら》に立ち入って眺めると、一口に没落期《ぼつらくき》の貴族文化の最後の歌い手とは言っても、ツルゲーネフ個人にとっての生家の事情は、すこぶる特異でもあり奇怪《きかい》でもあるものでした。母親ヴァルヴァーラは三十五|歳《さい》で初めて結婚《けっこん》した、気丈《きじょう》でヒステリックで野性的な、いわば典型的なロシアの女地
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