は玄關《げんくわん》の間《ま》から病室《びやうしつ》の内《なか》を覗込《のぞきこ》んで、物柔《ものやは》らかに問《と》ふので有《あ》つた。
『何故《なぜ》ですね?』
『何故《なぜ》だと。』と、イワン、デミトリチは嚇《おど》すやうな氣味《きみ》で、院長《ゐんちやう》の方《はう》に近寄《ちかよ》り、顫《ふる》ふ手《て》に病院服《びやうゐんふく》の前《まへ》を合《あは》せながら。
『何故《なぜ》かも無《な》いものだ! 此《こ》の盜人《ぬすびと》め!』
彼《かれ》は惡々《にく/\》しさうに唾《つば》でも吐《は》つ掛《か》けるやうな口付《くちつ》きをして。
『此《こ》の山師《やまし》! 人殺《ひとごろ》し!』
『まあ、落着《おちつ》きなさい。』
と、アンドレイ、エヒミチは惡《わ》るかつたと云《い》ふやうな顏付《かほつき》で云《い》ふ。
『可《よ》くお聽《き》きなさい、私《わたし》は未《ま》だ何《なん》にも盜《ぬす》んだ事《こと》もなし、貴方《あなた》に何《なに》も致《いた》したことは無《な》いのです。貴方《あなた》は何《なに》か間違《まちが》つてお出《いで》なのでせう、醜《ひど》く私《わたし》
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