み》て耳《みゝ》を欹《そばだ》てゝゐる。と、急《きふ》に來《き》た人《ひと》の院長《ゐんちやう》だと解《わか》つたので、彼《かれ》は全身《ぜんしん》を怒《いかり》に顫《ふる》はして、寐床《ねどこ》から飛上《とびあが》り、眞赤《まつか》になつて、激怒《げきど》して、病室《びやうしつ》の眞中《まんなか》に走《はし》り出《で》て突立《つゝた》つた。
『やあ、院長《ゐんちやう》が來《き》たぞ!』
 イワン、デミトリチは高《たか》く叫《さけ》んで、笑《わら》ひ出《だ》す。
『來《き》た々々! 諸君《しよくん》お目出《めで》たう、院長閣下《ゐんちやうかくか》が我々《われ/\》を訪問《はうもん》せられた! 此《こ》ン畜生《ちくしやう》め!』
と、彼《かれ》は聲《こゑ》を甲走《かんばし》らして、地鞴踏《ぢだんだふ》んで、同室《どうしつ》の者等《ものら》の未《いま》だ嘗《か》つて見《み》ぬ騷方《さわぎかた》。
『此《こ》ン畜生《ちくしやう》! やい毆殺《ぶちころ》して了《しま》へ! 殺《ころ》しても足《た》るものか、便所《べんじよ》にでも敲込《たゝきこ》め!』
 院長《ゐんちやう》のアンドレイ、エヒミチ
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