《また》モイセイカは同室《どうしつ》の者《もの》にも至《いた》つて親切《しんせつ》で、水《みづ》を持《も》つて來《き》て遣《や》り、寐《ね》る時《とき》には布團《ふとん》を掛《か》けて遣《や》りして、町《まち》から一|錢《せん》づつ貰《もら》つて來《き》て遣《や》るとか、各《めい/\》に新《あたら》しい帽子《ばうし》を縫《ぬ》つて遣《や》るとかと云《い》ふ。左《ひだり》の方《はう》の中風患者《ちゆうぶくわんじや》には始終《しゞゆう》匙《さじ》でもつて食事《しよくじ》をさせる。彼《かれ》が恁《か》くするのは、別段《べつだん》同情《どうじやう》からでもなく、と云《い》つて、或《あ》る情誼《じやうぎ》からするのでもなく、唯《たゞ》右《みぎ》の隣《となり》にゐるグロモフと云《い》ふ人《ひと》に習《なら》つて、自然《しぜん》其眞似《そのまね》をするので有《あ》つた。
イワン、デミトリチ、グロモフは三十三|歳《さい》で、彼《かれ》は此室《このしつ》での身分《みぶん》の可《い》いもの、元來《もと》は裁判所《さいばんしよ》の警吏《けいり》、又《また》縣廳《けんちやう》の書記《しよき》をも務《つと》め
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