《ひとり》此《こ》の特權《とくけん》を得《え》てゐたのである。彼《かれ》は町《まち》を廻《まは》るに病院服《びやうゐんふく》の儘《まゝ》、妙《めう》な頭巾《づきん》を被《かぶ》り、上靴《うはぐつ》を穿《は》いてる時《とき》もあり、或《あるひ》は跣足《はだし》でヅボン下《した》も穿《は》かずに歩《ある》いてゐる時《とき》もある。而《さう》して人《ひと》の門《かど》や、店前《みせさき》に立《た》つては一|錢《せん》づつを請《こ》ふ。或《ある》家《いへ》ではクワスを飮《の》ませ、或《ある》所《ところ》ではパンを食《く》はして呉《く》れる。で、彼《かれ》は毎《いつ》も滿腹《まんぷく》で、金持《かねもち》になつて、六|號室《がうしつ》に歸《かへ》つて來《く》る。が、其《そ》の携《たづさ》へ歸《かへ》る所《ところ》の物《もの》は、玄關《げんくわん》でニキタに皆《みんな》奪《うば》はれて了《しま》ふ。兵隊上《へいたいあが》りの小使《こづかひ》のニキタは亂暴《らんばう》にも、隱《かくし》を一々《いち/\》轉覆《ひつくりか》へして、悉皆《すつかり》取返《とりか》へして了《しま》ふので有《あ》つた。
 又
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