、猶且《やはり》元氣《げんき》で、子供《こども》のやうに愉快《ゆくわい》さうにぴん/\してゐる。拳《こぶし》で胸《むね》を打《う》つて祈《いの》るかと思《おも》へば、直《すぐ》に指《ゆび》で戸《と》の穴《あな》を穿《ほ》つたりしてゐる。是《これ》は猶太人《ジウ》のモイセイカと云《い》ふ者《もの》で、二十|年計《ねんばか》り前《まへ》、自分《じぶん》が所有《しよいう》の帽子製造場《ばうしせいざうば》が燒《や》けた時《とき》に、發狂《はつきやう》したのであつた。
六|號室《がうしつ》の中《うち》で此《こ》のモイセイカ計《ばか》りは、庭《には》にでも町《まち》にでも自由《じいう》に外出《でる》のを許《ゆる》されてゐた。其《そ》れは彼《かれ》が古《ふる》くから病院《びやうゐん》にゐる爲《ため》か、町《まち》で子供等《こどもら》や、犬《いぬ》に圍《かこ》まれてゐても、决《けつ》して他《た》に何等《なんら》の害《がい》をも加《くは》へぬと云《い》ふ事《こと》を町《まち》の人《ひと》に知《し》られてゐる爲《ため》か、左《と》に右《かく》、彼《かれ》は町《まち》の名物男《めいぶつをとこ》として、一人
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