つた。夜《よる》は靜《しづか》で何《なん》の音《おと》も爲《せ》ぬ。時《とき》は留《とゞま》つて院長《ゐんちやう》と共《とも》に書物《しよもつ》の上《うへ》に途絶《とだ》えて了《しま》つたかのやう。此《こ》の書物《しよもつ》と、青《あを》い傘《かさ》を掛《か》けたランプとの外《ほか》には、世《よ》に又《また》何物《なにもの》も有《あ》らぬかと思《おも》はるる靜《しづ》けさ。院長《ゐんちやう》の可畏《むくつけ》き、無人相《ぶにんさう》の顏《かほ》は、人智《じんち》の開發《かいはつ》に感《かん》ずるに從《したが》つて、段々《だん/\》と和《やはら》ぎ、微笑《びせう》をさへ浮《うか》べて來《き》た。
『あゝ、奈何《どう》して、人《ひと》は不死《ふし》の者《もの》では無《な》いか。』
と、彼《かれ》は考《かんが》へてゐる。『腦髓《なうずゐ》や、視官《しくわん》、言語《げんご》、自覺《じかく》、天才《てんさい》などは、終《つひ》には皆《みな》土中《どちゆう》に入《はひ》つて了《しま》つて、旋《やが》て地殼《ちかく》と共《とも》に冷却《れいきやく》し、何百萬年《なんびやくまんねん》と云《い》ふ長《
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