と少《すこ》しも異《ことな》らんのです。』
『其《そ》れは眞實《まつたく》です。』と、郵便局長《いうびんきよくちやう》は云《い》ふ。
『君《きみ》も知《し》つてゐられる通《とほ》り。』
と、院長《ゐんちやう》は靜《しづか》な聲《こゑ》で、又《また》話續《はなしつゞ》けるので有《あ》つた。
『此《こ》の世《よ》の中《なか》には人間《にんげん》の知識《ちしき》の高尚《こうしやう》な現象《げんしやう》の外《ほか》には、一《ひとつ》として意味《いみ》のある、興味《きようみ》のあるものは無《な》いのです。人智《じんち》なるものが、動物《どうぶつ》と、人間《にんげん》との間《あひだ》に、大《おほい》なる限界《さかひ》をなして居《を》つて、人間《にんげん》の靈性《れいせい》を示《しめ》し、或《あ》る程度《ていど》まで、實際《じつさい》に無《な》い所《ところ》の不死《ふし》の換《かは》りを爲《な》してゐるのです。是《これ》に由《よ》つて人智《じんち》は、人間《にんげん》の唯一《ゆゐいつ》[#ルビの「ゆゐいつ」は底本では「ゐいつ」]の快樂《くわいらく》の泉《いづみ》となつてゐる。然《しか》るに我々《われ
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