開《あ》かせたりする時《とき》に、子供《こども》が泣叫《なきさけ》び、小《ちひ》さい手《て》を突張《つツぱ》つたりすると、彼《かれ》は其聲《そのこゑ》で耳《みゝ》がガンとして了《しま》つて、眼《め》が廻《まは》つて涙《なみだ》が滴《こぼ》れる。で、急《いそ》いで藥《くすり》の處方《しよはう》を云《い》つて、子供《こども》を早《はや》く連《つ》れて行《い》つて呉《く》れと手《て》を振《ふ》る。
 診察《しんさつ》の時《とき》、患者《くわんじや》の臆病《おくびやう》、譯《わけ》の解《わか》らぬこと、代診《だいしん》の傍《そば》にゐること、壁《かべ》に懸《かゝ》つてる畫像《ぐわざう》、二十|年《ねん》以上《いじやう》も相變《あひかは》らずに掛《か》けてゐる質問《しつもん》、是等《これら》は院長《ゐんちやう》をして少《すくな》からず退屈《たいくつ》せしめて、彼《かれ》は五六|人《にん》の患者《くわんじや》を診察《しんさつ》し終《をは》ると、ふいと診察所《しんさつじよ》から出《で》て行《い》つて了《しま》ふ。で、後《あと》の患者《くわんじや》は代診《だいしん》が彼《かれ》に代《かは》つて診察《し
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