ゐんちやう》には町《まち》に顧主《とくい》の病家《びやうか》などは少《すこ》しも無《な》いのであるから。控所《ひかへじよ》は、壁《かべ》に大《おほ》きい額縁《がくぶち》に填《はま》つた聖像《せいざう》が懸《かゝ》つてゐて、重《おも》い燈明《とうみよう》が下《さ》げてある。傍《そば》には白《しろ》い布《きれ》を被《き》せた讀經臺《どきやうだい》が置《お》かれ、一|方《ぱう》には大主教《だいしゆけう》の額《がく》が懸《か》けてある、又《また》スウヤトコルスキイ修道院《しうだうゐん》の額《がく》と、枯《か》れた花環《はなわ》とが懸《か》けてある。此《こ》の聖像《せいざう》は代診《だいしん》自《みづか》ら買《か》つて此所《こゝ》に懸《か》けたもので、毎日曜日《まいにちえうび》、彼《かれ》の命令《めいれい》で、誰《だれ》か患者《くわんじや》の一人《ひとり》が、立《た》つて、聲《こゑ》を上《あ》げて、祈祷文《きたうぶん》を讀《よ》む、其《そ》れから彼《かれ》は自身《じしん》で、各病室《かくびやうしつ》を、香爐《かうろ》を掲《さ》げて振《ふ》りながら廻《まは》る。
 患者《くわんじや》は多《おほ》い
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