くつう》が薄《うす》らぐものなら、宗教《しゆうけう》や、哲學《てつがく》は必要《ひつえう》が無《な》くなつたと棄《すつ》るに至《いた》らう。プシキンは死《し》に先《さきだ》つて非常《ひじやう》に苦痛《くつう》を感《かん》じ、不幸《ふかう》なるハイネは數年間《すうねんかん》中風《ちゆうぶ》に罹《かゝ》つて臥《ふ》してゐた。して見《み》れば原始蟲《げんしちゆう》の如《ごと》き我々《われ/\》に、切《せめ》て苦難《くなん》てふものが無《な》かつたならば、全《まつた》く含蓄《がんちく》の無《な》い生活《せいくわつ》となつて了《しま》ふ。からして我々《われ/\》は病氣《びやうき》するのは寧《むし》ろ當然《たうぜん》では無《な》いか。
 恁《かゝ》る議論《ぎろん》に全然《まるで》心《こゝろ》を壓《あつ》しられたアンドレイ、エヒミチは遂《つひ》に匙《さじ》を投《な》げて、病院《びやうゐん》にも毎日《まいにち》は通《かよ》はなくなるに至《いた》つた。

       (六)

 彼《かれ》の生活《せいくわつ》は此《かく》の如《ごと》くにして過《す》ぎ行《ゆ》いた。朝《あさ》は八|時《じ》に起《お》き、
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