かほ》を洗《あら》ひ、病院服《びやうゐんふく》の裾《すそ》で拭《ふ》き、ニキタが本院《ほんゐん》から運《はこ》んで來《く》る、一|杯《ぱい》に定《さだ》められたる茶《ちや》を錫《すゞ》の器《うつは》で啜《すゝ》るのである。正午《ひる》には酢《す》く漬《つ》けた玉菜《たまな》の牛肉汁《にくじる》と、飯《めし》とで食事《しよくじ》をする。晩《ばん》には晝食《ひるめし》の餘《あま》りの飯《めし》を食《た》べるので。其間《そのあひだ》は横《よこ》になるとも、睡《ねむ》るとも、空《そら》を眺《なが》めるとも、室《へや》の隅《すみ》から隅《すみ》へ歩《ある》くとも、恁《か》うして毎日《まいにち》を送《おく》つてゐる。
 新《あたら》しい人《ひと》の顏《かほ》は六|號室《がうしつ》では絶《た》えて見《み》ぬ。院長《ゐんちやう》アンドレイ、エヒミチは新《あらた》な瘋癲患者《ふうてんくわんじや》はもう疾《と》くより入院《にふゐん》せしめぬから。又《また》誰《ゝれ》とて這麼瘋癲者《こんなふうてんしや》の室《へや》に參觀《さんくわん》に來《く》る者《もの》も無《な》いから。唯《たゞ》二ヶ|月《げつ》に一|度
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