わか》らんのです。』
とイワン、デミトリチは愁《うれ》はしさうに答《こた》へる。
『然《しか》し私《わたくし》が早晩《さうばん》手《て》に入《い》れやうと思《おも》ひますのは、何《なん》だか知《し》つておゐでになりますか。』
先《もと》の郵便局員《いうびんきよくゐん》は、さも狡猾《ずる》さうに眼《め》を細《ほそ》めて云《い》ふ。
『私《わたくし》は屹度《きつと》此度《こんど》は瑞典《スウエーデン》の北極星《ほくきよくせい》の勳章《くんしやう》を貰《もら》はうと思《おも》つて居《を》るです、其勳章《そのくんしやう》こそは骨《ほね》を折《を》る甲斐《かひ》のあるものです。白《しろ》い十|字架《じか》に、黒《くろ》リボンの附《つ》いた、其《そ》れは立派《りつぱ》です。』
此《こ》の六|號室程《がうしつほど》單調《たんてう》な生活《せいくわつ》は、何處《どこ》を尋《たづ》ねても無《な》いであらう。朝《あさ》には患者等《くわんじやら》は、中風患者《ちゆうぶくわんじや》と、油切《あぶらぎ》つた農夫《のうふ》との外《ほか》は皆《みな》玄關《げんくわん》に行《い》つて、一つ大盥《おほだらひ》で顏《
前へ
次へ
全197ページ中38ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
チェーホフ アントン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング