め》は、元來《もと》郵便局《いうびんきよく》とやらに勤《つと》めた男《をとこ》で、氣《き》の善《い》いやうな、少《すこ》し狡猾《ずる》いやうな、脊《せ》の低《ひく》い、瘠《や》せたブロンヂンの、利發《りかう》らしい瞭然《はつきり》とした愉快《ゆくわい》な眼付《めつき》、些《ちよつ》と見《み》ると恰《まる》で正氣《しやうき》のやうである。彼《かれ》は何《なに》か大切《たいせつ》な祕密《ひみつ》な物《もの》を有《も》つてゐると云《い》ふやうな風《ふう》をしてゐる。枕《まくら》の下《した》や、寐臺《ねだい》の何處《どこ》かに、何《なに》かをそツと[#「そツと」に傍点]隱《かく》して置《お》く、其《そ》れは盜《ぬす》まれるとか、奪《うば》はれるとか、云《い》ふ氣遣《きづかひ》の爲《た》めではなく人《ひと》に見《み》られるのが恥《はづ》かしいのでさうして隱《かく》して置《お》く物《もの》がある。時々《とき/″\》同室《どうしつ》の者等《ものら》に脊《せ》を向《む》けて、獨《ひとり》窓《まど》の所《ところ》に立《た》つて、何《なに》かを胸《むね》に着《つ》けて、頭《かしら》を屈《かゞ》めて熟視《み
前へ
次へ
全197ページ中36ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
チェーホフ アントン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング