》から、幾干《いくばく》もなくして町立病院《ちやうりつびやうゐん》に入《い》れられ、梅毒病患者《ばいどくびやうくわんじや》と同室《どうしつ》する事《こと》となつた。然《しか》るに彼《かれ》は毎晩《まいばん》眠《ねむ》らずして、我儘《わがまゝ》を云《い》つては他《ほか》の患者等《くわんじやら》の邪魔《じやま》をするので、院長《ゐんちやう》のアンドレイ、エヒミチは彼《かれ》を六|號室《がうしつ》の別室《べつしつ》へ移《うつ》したのであつた。
 一|年《ねん》を經《へ》て、町《まち》ではもうイワン、デミトリチの事《こと》は忘《わす》れて了《しま》つた。彼《かれ》の書物《しよもつ》は女主人《をんなあるじ》が橇《そり》の中《なか》に積重《つみかさ》ねて、軒下《のきした》に置《お》いたのであるが、何處《どこ》からともなく、子供等《こどもら》が寄《よ》つて來《き》ては、一|册《さつ》持《も》ち行《ゆ》き、二|册《さつ》取去《とりさ》り、段々《だん/\》に皆《みんな》何《いづ》れへか消《き》えて了《しま》つた。

       (四)

 イワン、デミトリチの左《ひだり》の方《はう》の隣《となり》は、
前へ 次へ
全197ページ中34ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
チェーホフ アントン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング