《のうふ》が叫《さけ》ぶ。イワン、デミトリチは兩耳《りやうみゝ》がガンとして、世界中《せかいぢゆう》の有《あら》ゆる壓制《あつせい》が、今《いま》彼《かれ》の直《す》ぐ背後《うしろ》に迫《せま》つて、自分《じぶん》を追駈《おひか》けて來《き》たかのやうに思《おも》はれた。
 彼《かれ》は捕《とら》へられて家《いへ》に引返《ひきかへ》されたが、女主人《をんなあるじ》は醫師《いしや》を招《よ》びに遣《や》られ、ドクトル、アンドレイ、エヒミチは來《き》て彼《かれ》を診察《しんさつ》したのであつた。
 而《さう》して頭《あたま》を冷《ひや》す藥《くすり》と、桂梅水《けいばいすゐ》とを服用《ふくよう》するやうにと云《い》つて、不好《いや》さうに頭《かしら》を振《ふ》つて、立歸《たちかへ》り際《ぎは》に、もう二|度《ど》とは來《こ》ぬ、人《ひと》の氣《き》の狂《くる》ふ邪魔《じやま》を爲《す》るにも當《あた》らないからとさう云《い》つた。
 恁《か》くてイワン、デミトリチは宿《やど》を借《かり》る事《こと》も、療治《れうぢ》する事《こと》も、錢《ぜに》の無《な》いので出來兼《できか》ぬる所《ところ
前へ 次へ
全197ページ中33ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
チェーホフ アントン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング