つな》がれるなど云《い》ふ事《こと》は良心《りやうしん》にさへ疚《やま》しい所《ところ》が無《な》いならば少《すこ》しも恐怖《おそる》るに足《た》らぬ事《こと》、這麼事《こんなこと》を恐《おそ》れるのは精神病《せいしんびやう》に相違《さうゐ》なき事《こと》、と、彼《かれ》も自《みづか》ら思《おも》ふて是《こゝ》に至《いた》らぬのでも無《な》いが、偖《さて》又《また》考《かんが》へれば考《かんが》ふる程《ほど》迷《まよ》つて、心中《しんちゆう》は愈々《いよ/\》苦悶《くもん》と、恐怖《きようふ》とに壓《あつ》しられる。で、彼《かれ》ももう思慮《かんが》へる事《こと》の無益《むえき》なのを悟《さと》り、全然《すつかり》失望《しつばう》と、恐怖《きようふ》との淵《ふち》に沈《しづ》んで了《しま》つたのである。
 彼《かれ》は其《そ》れより獨居《どくきよ》して人《ひと》を避《さ》け初《はじ》めた。職務《しよくむ》を取《と》るのは前《まへ》にも不好《いや》であつたが、今《いま》は猶《なほ》一|層《そう》不好《いや》で堪《たま》らぬ、と云《い》ふのは、人《ひと》が何時《いつ》自分《じぶん》を欺《だ
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