が》る。巡査《じゆんさ》や、憲兵《けんぺい》に遇《あ》ひでもすると故《わざ》と平氣《へいき》を粧《よそほ》ふとして、微笑《びせう》して見《み》たり、口笛《くちぶえ》を吹《ふ》いて見《み》たりする。如何《いか》なる晩《ばん》でも彼《かれ》は拘引《こういん》されるのを待《ま》ち構《かま》へてゐぬ時《とき》とては無《な》い。其《そ》れが爲《ため》に終夜《よつぴて》眠《ねむ》られぬ。が、若《も》し這麼事《こんなこと》を女主人《をんなあるじ》にでも嗅付《かぎつ》けられたら、何《なに》か良心《りやうしん》に咎《とが》められる事《こと》があると思《おも》はれやう、那樣疑《そんなうたがひ》でも起《おこ》されたら大變《たいへん》と、彼《かれ》はさう思《おも》つて無理《むり》に毎晩《まいばん》眠《ね》た振《ふり》をして、大鼾《おほいびき》をさへ發《か》いてゐる。然《しか》し這麼心遣《こんなこゝろづかひ》は事實《じゝつ》に於《おい》ても、普通《ふつう》の論理《ろんり》に於《おい》ても考《かんが》へて見《み》れば實《じつ》に愚々《ばか/\》しい次第《しだい》で、拘引《こういん》されるだの、獄舍《らうや》に繋《
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