の心《こゝろ》を攪亂《かくらん》して、書物《しよもつ》を讀《よ》むにも、考《かんが》ふるにも、邪魔《じやま》をする。彼《かれ》は夜《よる》になつても燈《あかり》をも點《つ》けず、夜《よも》すがら眠《ねむ》らず、今《いま》にも自分《じぶん》が捕縛《ほばく》され、獄《ごく》に繋《つな》がれはせぬかと唯《たゞ》其計《そればか》りを思《おも》ひ惱《なや》んでゐるのであつた。
然《しか》し無論《むろん》、彼《かれ》は自身《じしん》に何《なん》の罪《つみ》もなきこと、又《また》將來《しやうらい》に於《おい》ても殺人《さつじん》、窃盜《せつたう》、放火《はうくわ》などの犯罪《はんざい》は斷《だん》じて爲《せ》ぬとは知《し》つてゐるが、又《また》獨《ひとり》つく/″\と恁《か》うも思《おも》ふたのであつた。故意《こい》ならず犯罪《はんざい》を爲《な》すことが無《な》いとも云《い》はれぬ、人《ひと》の讒言《ざんげん》、裁判《さいばん》の間違《まちがひ》などは有《あ》り得《う》べからざる事《こと》だとは云《い》はれぬ、抑《そもそ》も裁判《さいばん》の間違《まちがひ》は、今日《こんにち》の裁判《さいばん》
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