にもあらずむら/\[#「むら/\」に傍点]と湧《わ》いて、自分《じぶん》も恁《か》く枷《かせ》を箝《は》められて、同《おな》じ姿《すがた》に泥濘《ぬかるみ》の中《なか》を引《ひ》かれて、獄《ごく》に入《いれ》られはせぬかと、遽《にはか》に思《おも》はれて慄然《ぞつ》とした。其《そ》れから町人《ちやうにん》の家《いへ》よりの歸途《かへり》、郵便局《いうびんきよく》の側《そば》で、豫《かね》て懇意《こんい》な一人《ひとり》の警部《けいぶ》に出遇《であ》つたが警部《けいぶ》は彼《かれ》に握手《あくしゆ》して數歩計《すうほばか》り共《とも》に歩《ある》いた。すると、何《なん》だか是《これ》が又《また》彼《かれ》には只事《たゞごと》でなく怪《あや》しく思《おも》はれて、家《いへ》に歸《かへ》つてからも一|日中《にちぢゆう》、彼《かれ》の頭《あたま》から囚人《しうじん》の姿《すがた》、銃《じゆう》を負《お》ふてる兵卒《へいそつ》の顏《かほ》などが離《はな》れずに、眼前《がんぜん》に閃付《ちらつ》いてゐる、此《こ》の理由《わけ》の解《わか》らぬ煩悶《はんもん》が怪《あや》しくも絶《た》えず彼《かれ》
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