(三)
ある秋《あき》の朝《あさ》のこと、イワン、デミトリチは外套《ぐわいたう》の襟《えり》を立《た》てゝ泥濘《ぬか》つてゐる路《みち》を、横町《よこちやう》、路次《ろじ》と經《へ》て、或《あ》る町人《ちやうにん》の家《いへ》に書付《かきつけ》を持《も》つて金《かね》を取《と》りに行《い》つたのであるが、猶且《やはり》毎朝《まいあさ》のやうに此《こ》の朝《あさ》も氣《き》が引立《ひきた》たず、沈《しづ》んだ調子《てうし》で或《あ》る横町《よこちやう》に差掛《さしかゝ》ると、折《をり》から向《むかふ》より二人《ふたり》の囚人《しうじん》と四|人《にん》の銃《じゆう》を負《お》ふて附添《つきそ》ふて來《く》る兵卒《へいそつ》とに、ぱつたり[#「ぱつたり」に傍点]と出會《でつくわ》す。彼《かれ》は何時《いつ》が日《ひ》も囚人《しうじん》に出會《でつくわ》せば、同情《どうじやう》と不愉快《ふゆくわい》の感《かん》に打《う》たれるのであるが、其日《そのひ》は又《また》奈何云《どうい》ふものか、何《なん》とも云《い》はれぬ一|種《しゆ》の不好《いや》な感覺《かんかく》が、常《つね》
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