深《ふか》く感《かん》じ入《い》つて説《と》くのであるが、偖《さて》自身《じしん》には未《いま》だ一|度《ど》も戀愛《れんあい》てふものを味《あぢは》ふた事《こと》は無《な》いので。
彼《かれ》は恁《か》くも神經質《しんけいしつ》で、其議論《そのぎろん》は過激《くわげき》であつたが、町《まち》の人々《ひと/″\》は其《そ》れにも拘《かゝは》らず彼《かれ》を愛《あい》して、ワアニア、と愛嬌《あいけう》を以《もつ》て呼《よ》んでゐた。彼《かれ》が天性《てんせい》の柔《やさ》しいのと、人《ひと》に親切《しんせつ》なのと、禮儀《れいぎ》の有《あ》るのと、品行《ひんかう》の方正《はうせい》なのと、着古《きぶる》したフロツクコート、病人《びやうにん》らしい樣子《やうす》、家庭《かてい》の不遇《ふぐう》、是等《これら》は皆《みな》總《すべ》て人々《ひと/″\》に温《あたゝか》き同情《どうじやう》を引起《ひきおこ》さしめたのであつた。又《また》一|面《めん》には彼《かれ》は立派《りつぱ》な教育《けういく》を受《う》け、博學《はくがく》多識《たしき》で、何《な》んでも知《し》つてゐると町《まち》の人《
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