り》、鐵窓《てつさう》を洩《も》れて、床《ゆか》の上《うへ》に網《あみ》に似《に》たる如《ごと》き墨畫《すみゑ》を夢《ゆめ》のやうに浮出《うきだ》したのは、謂《いは》ふやうなく、凄絶《せいぜつ》又《また》慘絶《さんぜつ》の極《きはみ》で有《あ》つた、アンドレイ、エヒミチは横《よこ》たはつた儘《まゝ》、未《ま》だ息《いき》を殺《ころ》して、身《み》を縮《ちゞ》めて、もう一|度《ど》打《ぶ》たれはせぬかと待《まち》構《かま》へてゐる。と、忽《たちま》ち覺《おぼ》ゆる胸《むね》の苦痛《くつう》、膓《ちやう》の疼痛《とうつう》、誰《たれ》か鋭《するど》き鎌《かま》を以《もつ》て、刳《ゑぐ》るにはあらぬかと思《おも》はるゝ程《ほど》、彼《かれ》は枕《まくら》に強攫《しが》み着《つ》き、きりゝ[#「きりゝ」に傍点]と齒《は》をば切《くひしば》る。今《いま》ぞ初《はじ》めて彼《かれ》は知《し》る。其有耶無耶《そのうやむや》になつた腦裏《なうり》に、猶《なほ》朧朦氣《おぼろげ》に見《み》た、月《つき》の光《ひかり》に輝《てら》し出《だ》されたる、黒《くろ》い影《かげ》のやうな此《こ》の室《へや》の人々
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