《ひと/″\》こそ、何年《なんねん》と云《い》ふ事《こと》は無《な》く、恁《かゝ》る憂目《うきめ》に遭《あ》はされつゝ有《あ》りしかと、堪《た》へ難《がた》き恐《おそろ》しさは電《いなづま》の如《ごと》く心《こゝろ》の中《うち》に閃《ひらめ》き渡《わた》つて、二十|有餘年《いうよねん》の間《あひだ》、奈何《どう》して自分《じぶん》は是《これ》を知《し》らざりしか、知《し》らんとは爲《せ》ざりしか。と空《そら》恐《おそろ》しく思《おも》ふので有《あ》つたが、又《また》剛情《がうじやう》我慢《がまん》なる其良心《そのりやうしん》は、とは云《い》へ自《みづか》らは未《いま》だ嘗《かつ》て疼痛《とうつう》の考《かんが》へにだにも知《し》らぬので有《あ》つた、然《しか》らば自分《じぶん》が惡《わる》いのでは無《な》いのであると囁《さゝや》いて、宛然《さながら》襟下《えりもと》から冷水《ひやみづ》を浴《あ》びせられたやうに感《かん》じた。彼《かれ》は起上《おきあが》つて聲限《こゑかぎ》りに叫《さけ》び、而《さう》して此《こゝ》より拔出《ぬけい》でて、ニキタを眞先《まつさき》に、ハヾトフ、會計《くわ
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