意氣地《いくぢ》が無《な》いものです、貴方《あなた》とても猶且《やはり》然《さ》うでせう、貴方《あなた》などは、才智《さいち》は勝《すぐ》れ、高潔《かうけつ》ではあり、母《はゝ》の乳《ちゝ》と共《とも》に高尚《かうしやう》な感情《かんじやう》を吸込《すひこ》まれた方《かた》ですが、實際《じつさい》の生活《せいくわつ》に入《い》るや否《いなや》、直《たゞち》に疲《つか》れて病氣《びやうき》になつて了《しま》はれたです。實《じつ》に人《ひと》は微弱《びじやく》なものだ。』
彼《かれ》には悲愴《ひさう》の感《かん》の外《ほか》に、未《ま》だ一|種《しゆ》の心細《こゝろぼそ》き感《かん》じが、殊《こと》に日暮《ひぐれ》よりかけて、しんみり[#「しんみり」に傍点]と身《み》に泌《し》みて覺《おぼ》えた。是《これ》は麥酒《ビール》と、莨《たばこ》とが、欲《ほ》しいので有《あ》つたと彼《かれ》も終《つひ》に心着《こゝろづ》く。
『私《わたし》は此處《こゝ》から出《で》て行《ゆ》きますよ、君《きみ》。』と、彼《かれ》はイワン、デミトリチに恁《か》う云《い》ふた。『此《こゝ》へ燈《あかり》を持《も》つ
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