なは》ち神《かみ》の像《ざう》たる人間《にんげん》が。唯《たゞ》に醫者《いしや》として、邊鄙《へんぴ》なる、蒙昧《もうまい》なる片田舍《かたゐなか》に一|生《しやう》、壜《びん》や、蛭《ひる》や、芥子紛《からしこ》だのを弄《いぢ》つてゐるより外《ほか》に、何《なん》の爲《な》す事《こと》も無《な》いのでせうか、詐欺《さぎ》、愚鈍《ぐどん》、卑劣漢《ひれつかん》、と一|所《しよ》になつて、いやもう!』
『下《くだ》らん事《こと》を貴方《あなた》は零《こぼ》して居《ゐ》なさる。醫者《いしや》が不好《いや》なら大臣《だいじん》にでもなつたら可《い》いでせう。』
『いや、何處《どこ》へ行《ゆ》くのも、何《なに》を遣《や》るのも望《のぞ》まんです。考《かんが》へれば意氣地《いくぢ》が無《な》いものさ。是迄《これまで》は虚心《きよしん》平氣《へいき》で、健全《けんぜん》に論《ろん》じてゐたが、一|朝《てう》生活《せいくわつ》の逆流《ぎやくりう》に觸《ふ》るゝや、直《たゞち》に氣《き》は挫《くじ》けて落膽《らくたん》に沈《しづ》んで了《しま》つた……意氣地《いくぢ》が無《な》い……人間《にんげん》は
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