拭《ふ》きながら。『全《まつた》く落膽《がつかり》して了《しま》ひました。』
『では一つ哲學《てつがく》の議論《ぎろん》でもお遣《や》んなさい。』と、イワン、デミトリチは冷笑《れいせう》する。
『あゝ絶體絶命《ぜつたいぜつめい》……然《さ》うだ。何時《いつ》か貴方《あなた》は露西亞《ロシヤ》には哲學《てつがく》は無《な》い、然《しか》し誰《たれ》も、彼《かれ》も、丁斑魚《めだか》でさへも哲學《てつがく》をすると有仰《おつしや》つたつけ。然《しか》し丁斑魚《めだか》が哲學《てつがく》をすればつて、誰《だれ》にも害《がい》は無《な》いのでせう。』アンドレイ、エヒミチは奈何《いか》にも情無《なさけな》いと云《い》ふやうな聲《こゑ》をして。『奈何《どう》して君《きみ》、那樣《そんな》に可《い》い氣味《きみ》だと云《い》ふやうな笑樣《わらひやう》をされるのです。幾《いく》ら丁斑魚《めだか》でも滿足《まんぞく》を得《え》られんなら、哲學《てつがく》を爲《せ》ずには居《を》られんでせう。苟《いやしく》も智慧《ちゑ》ある、教育《けういく》ある、自尊《じそん》ある、自由《じいう》を愛《あい》する、即《す
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