《ばか》り片眼《かため》をパチ/\と、自分《じぶん》を見《み》て笑《わら》ふ。
アンドレイ、エヒミチは強《し》ひて心《こゝろ》を落着《おちつ》けて、何《なん》の、月《つき》も、監獄《かんごく》も其《そ》れが奈何《どう》なのだ、壯健《さうけん》な者《もの》も勳章《くんしやう》を着《つ》けてゐるではないか。と、然《さ》う思返《おもひかへ》したものゝ、猶且《やはり》失望《しつばう》は彼《かれ》の心《こゝろ》に愈※[#二の字点、1−2−22]《いよ/\》募《つの》つて、彼《かれ》は思《おも》はず兩《りやう》の手《て》に格子《かうし》を捉《とら》へ、力儘《ちからまか》せに搖動《ゆすぶ》つたが、堅固《けんご》な格子《かうし》はミチリとの音《おと》も爲《せ》ぬ。
荒凉《くわうりやう》の氣《き》に打《う》たれた彼《かれ》は、何《なに》かなして心《こゝろ》を紛《まぎ》らさんと、イワン、デミトリチの寐臺《ねだい》の所《ところ》に行《い》つて腰《こし》を掛《かけ》る。
『私《わたくし》はもう落膽《がつかり》して了《しま》ひましたよ、君《きみ》。』と、彼《かれ》は顫聲《ふるへごゑ》して、冷汗《ひやあせ》を
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