びろ》い畑《はた》は暗《くら》かつたが、左《ひだり》の方《はう》の地平線上《ちへいせんじやう》より、今《いま》しも冷《つめ》たい金色《こんじき》の月《つき》が上《のぼ》る所《ところ》、病院《びやうゐん》の塀《へい》から百|歩計《ぽばか》りの處《ところ》に、石《いし》の牆《かき》の繞《めぐ》らされた高《たか》い、白《しろ》い家《いへ》が見《み》える。是《これ》は監獄《かんごく》で有《あ》る。
『是《これ》が現實《げんじつ》と云《い》ふものか。』アンドレイ、エヒミチは思《おも》はず慄然《ぞつ》とした。
 凄然《せいぜん》たる月《つき》、塀《へい》の上《うへ》の釘《くぎ》、監獄《かんごく》、骨燒場《ほねやきば》の遠《とほ》い焔《ほのほ》、アンドレイ、エヒミチは有繋《さすが》に薄氣味惡《うすきみわる》い感《かん》に打《う》たれて、しよんぼり[#「しよんぼり」に傍点]と立《た》つてゐる。と直後《すぐうしろ》に、吐《ほつ》と計《ばか》り溜息《ためいき》の聲《こゑ》がする。振返《ふりかへ》れば胸《むね》に光《ひか》る徽章《きしやう》やら、勳章《くんしやう》やらを下《さ》げた男《をとこ》が、ニヤリと計
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