ニキタが立《た》つて待《ま》つてゐるので、直《す》ぐに着《き》てゐた服《ふく》をすツぽり[#「すツぽり」に傍点]と脱《ぬ》ぎ棄《す》て、病院服《びやうゐんふく》に着替《きか》へて了《しま》つた。シヤツは長《なが》し、ヅボン下《した》は短《みじ》かし、上着《うはぎ》は魚《さかな》の燒《や》いた臭《にほひ》がする。『屹度《きつと》間《ま》もなくお直《なほ》りでせう。』と、ニキタは復《また》云《い》ふてアンドレイ、エヒミチの脱捨《ぬぎすて》た服《ふく》を一纏《ひとまと》めにして、小腋《こわき》に抱《かか》へた儘《まゝ》、戸《と》を閉《た》てゝ行《ゆ》く。
『奈何《どう》でも可《い》い……。』と、アンドレイ、エヒミチは體裁《きまり》惡《わる》さうに病院服《びやうゐんふく》の前《まへ》を掻合《かきあ》はせて、さも囚人《しうじん》のやうだと思《おも》ひながら、『奈何《どう》でも可《い》いわ……燕尾服《えんびふく》だらうが、軍服《ぐんぷく》だらうが、此《こ》の病院服《びやうゐんふく》だらうが、同《おな》じ事《こと》だ。』
『然《しか》し時計《とけい》は奈何《どう》したらう、其《そ》れからポツケツトに
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